
アンドリュー・カーネギーという人がいます。
アメリカの有名な実業家で、鉄鋼王カーネギーの異名を持つ人物です。
ある夜のこと、彼はあまりに多くの悩みを抱えてノイローゼのようになり、自殺まで考えていました。
「ろくでなしの甥っ子が警察沙汰の事件を起こし、身柄を引き取りに行かなくちゃいけない」
「政治家からの不当な圧力で、会社が存亡の危機に陥っている」
「妻から今夜食事に付き合ってくれなければ離婚すると言われてしまった」
身の回りのことから仕事まですべての危機が同時に頂点に達していた時期だったのです。
もうダメだ、限界だ、とカーネギーは思いました。
遺書を書いて自殺しよう。
そうカーネギーは決心し、机の引き出しを開けました。
引き出しにはもちろん護身用の拳銃が入っていたのですが、その下には自分の名入りの立派な便箋セットがありました。
「ああ、自殺するんだったら遺書を書かなくちゃ」
カーネギーはそう思って苦笑します。
まったく、自殺する前にもひと仕事しなきゃいけないのか…。
遺書を書く段になってカーネギーは考え込んでしまいました。
「死にたいぐらい悩んでいるんだから、さぞかし自分には深い悩みが多いんだろう。いったいいくつぐらいあるんだ?」
わからなくなったカーネギーは、便箋と鉛筆を持ち出し、思いつく問題や悩みをすべて書き出したそうです。
当時、カーネギーは「世界で一番忙しい男」と言われていました。
仕事だけでなく、家族関係を含めると、悩みは絶対に何百もあるに違いない。
ひょっとしたら1000個ぐらいあるんじゃないか?
ところが、箇条書きにしてみると、60個ぐらい書いたところで、鉛筆がピタリと止まったそうです。
思い出して考えて、とりあえず「もっと悩みはあるはずだ」と些細な問題まで書き出します。
しかし、あんなにたくさんあると思っていた悩みは、結局、70いくつぐらいしかなかったのです。
普通の人でも70も悩みがあれば多いと思います。
でも自分の問題や悩みは何百もあると思っていた彼は、あれ?と思ったわけです。
結局、70個の悩みを順繰りに次から次へと考えていたことで、自殺するほど追いつめられていたのです。
悩みを書ききった瞬間、今夜中に解決できることはほとんどないことに気がつきました。
カーネギーは悩みを書いた便箋を、問題ごとにちぎってカードみたいにし、それを仕分けし始めました。
「明日できること」、「来週以降に着手できること」、「来月でも間に合うもの」、「解決できないこと」という4つの山に分けて、その4つ目の山はそのままくず箱に入れてしまいました。
残った3つの山、自分の悩みを書いた便箋の切れ端をカーネギーは大事に机の引き出しにしまい、そのまま彼は奥さんと夕食に出かけたそうです。
もうすっかり拳銃や自殺のことなど忘れて。