「世の中の不条理を15個あげなさい」という問題に答えられますか?

慶應義塾大学環境情報学部の2021年度の小論文の問題が非常におもしろい問題で、「世の中の不条理を15個あげなさい」というものでした。

まず、「15個」という数に驚きます。

15個も世の中の不条理を発想することができるでしょうか。

普段の問題意識が問われる問題です。

今回は、「この問題がいかに素晴らしいのか」、ということを一緒に考えていきたいと思います。

リード文もよく練られているので、まずはリード文から読んでみてください。

慶應義塾大学環境情報学部2021年 小論文問題より抜粋

慶應義塾大学環境情報学部は、残すに値する未来を一緒に創造できる人を求めています。

私たちが生きるこの世の中では、たくさんのことが目まぐるしく変化しています。

私たち一人ひとりは、望む、望まないにかかわらず、目まぐるしく変化するこの世の中で、生きていくことになります。

この世の中には、不条理な(※1)ことがたくさんありますが、それら臭いものに蓋をしても、隠し通すことはできません。

近い未来、私たちが生きていくうちに、必ずそれらの不条理と向かい合う日がやってきます。

腰がひけたまま、他人事のように未来をただ待つのではなく、私たち一人ひとりが、どうすればそれらの不条理を解決し、残すに値する未来を創造できるのかを考え、できることから仕掛けていくことが大切です。

(※1)ここでいう「不条理な」とは、英語の「Irrational」を意味し、「理性のない、分別のない、道理のわからない、不合理な」という意味を表すとします。

【問題】

あなたがこの世の中で不条理だと感じていることを15個あげてください。

また、なぜそれらが不条理だと感じるのか、個々の不条理の内容と理由をそれぞれ簡潔に1文で記述してください。

なお、不条理は、個人的かつ情緒的な内容(例えば、夜起きていたいのに眠くなる、◯◯をみるとカッとする、など)ではなく、下記の課題ジャンル(a)〜(c)のいずれか、もしくは、複数に関わる内容を記述してください。

課題ジャンル:

(a)人間の慣習に関すること

(b)社会のしくみやルールに関すること

(c)人間と環境の関係に関すること

いくつ思いつくか、自分で考えてみてほしいので一度読むのをやめて、考えてみてください。

どうでしょう。

なかなか苦戦するのではないでしょうか。

この問題をテーマに、中3の公民の授業でブレインストーミングをやってみました。

その際にあがったものを中心に紹介します。

(a)人間の慣習に関すること

内容:女性差別の問題

理由:「女性だから」という理由で当人の資質や能力に関係なく差別を受けるのはおかしい

内容:同調圧力

理由:日本の社会は同調圧力が強く、出る杭は打たれる風潮があって自由な議論や自由な競争を阻害している

内容:男性トイレ、女性トイレばかり

理由:性は多様なものであり、男性トイレ、女性トイレを使うことに抵抗のある人もいるから多目的トイレをもっと増やす必要があるのにそのようになっていないから

内容:技術開発が殺人に使われること

理由:技術が発達すればするほど、銃、ダイナマイト、機関銃、核兵器などどんどん大量殺人が可能になること

内容:通勤・通学ラッシュ

理由:特定の時間に通勤や通学が集中しすぎていることによって、息苦しい思いや不快な思いをしなければならないから

(b)社会のしくみやルールに関すること

内容:年功序列の制度

理由:年上の方が偉い、実績もないのに給料が高い、目上の人に意見できないのは合理的ではない

内容:子どもが親を選べず、格差が世襲されること

理由:教育格差が経済格差となり、富裕層は特権階級化しているのに、貧困層は毎日の食事にすら困る状況だから

内容:国のトップである内閣総理大臣を国民が直接決められない

理由:政権与党の都合でトップが決まり、民意が反映されないのはおかしい

内容:多数決で決めること

理由:多数決で決めることが常に正しいとは限らないし、多数決で決めると少数派が犠牲になることがあるから

内容:シルバーデモクラシー

理由:高齢者の投票率が高く、若年層の投票率が低いことによって高齢者向けの政策ばかりが優先されるから

(c)人間と環境の関係に関すること

内容:マイクロプラスチックの問題

理由:プラスチックに依存する人間の利己的な活動により、生態系に悪影響を及ぼしている

内容:エアコン

理由:自分たちのいる空間を涼しく快適にするのに、自分たちの空間の外を暑くして不快にするから

内容:地球温暖化の影響を受けるのが後の世代

理由:経済的豊かさを求めて環境を犠牲にした世代が環境問題の被害を受けず、後の世代が環境問題によって経済的豊かさを犠牲にしなければならないから

内容:先進国の環境破壊によって途上国の経済開発が阻害されること

理由:先進国は経済開発を優先してきたのに、途上国は先進国の環境破壊により国際的な環境規制が厳しくなり、経済開発を犠牲にしなければならないから

内容:原子力発電所

理由:日本は地震大国で原子力発電所のリスクが高いのに建設が進んでいる。また、使用済み核燃料を処分する方法が確立されていないため、放射能汚染のリスクが非常に高いこと

言われてみると、ああなるほど、という答えが多かったのではないでしょうか。

この問題が問いかけているのは「世の中に対してどれくらい関心があり、問題意識を持っているか」ということです。

逆の言い方をすると、「問題意識を持たず、ボーっと生きているだけの人は入学してこないでください」と言っているのです。

この問題は、受験勉強のレベルであっても「問題意識を持つ」ということが求められているということが良くわかるのですが、実は難関大ほどこうした傾向が強いのです。

最近の世界史の授業でも、国際連合の常任理事国が拒否権を持っていることによって侵略行為や人権抑圧が止められないことを紹介しました。

これも大変不条理な事例です。

こうしたことが、世界史の授業に限らずあらゆる授業、普段見聞きするニュースなどにたくさんひそんでいるのです。

授業を受けているとき、ニュースを見ているときなど、ふとした瞬間に自分が感じた問題意識を決して見逃さないでください。

放っておくと忘れてしまうような小さな疑問が、大きな問いにつながります。

自分の問題意識は、何よりも大切なものです。

普段様々な授業で扱っている問題について、自分なりに問題意識を持って考察をしたり、質問をしたりするような習慣がついている生徒はすべてにおいて強いです。

普段勉強していることと、世の中がちゃんとつながっているということが理解できればできるほど、学力は上がります。

また、実際に社会に出たときに求められているのも、どのような問題意識をもって課題に取り組んでいくのかという力です。

今回のこの問題には続きがあって、次の問いが「自分で15個あげた中から3つ選んで、解決の方向性と方法について、解決のカギとなる技術革新、アイディアもふくめできる限り具体的、定量的、かつヴィジュアルに説明してください」となっています。

もちろん、15個もあげられるとは限りませんし、解決策についても完璧に書けなくても良いのです。

粗削りでも良いので、問題意識や発想力を持った生徒に入学してほしいのです。

こうした生徒がどれだけ入学後に伸びるのか、ということを大学は知っているからです。

答えをストックしていくような勉強も確かに必要なのですが、問題意識をストックしてくということも大切です。

社会のさまざまな問題を解決していくために、今勉強をしているのだという意識を持っていきましょう。

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