江戸時代のベストセラーに『塵劫記』(じんこうき)(江戸初期の和算家、吉田光由著)という本があります。
これは数学の本です。

挿絵がたくさん入っていて、日常的に使える数学の知識や、面積の求め方などが書かれています。
ピタゴラスの定理や方程式など、現代の中学生から高校生くらいが学ぶような内容の本です。
これが江戸時代を通じて庶民たちに売れ、一家に一冊はあったとも言われています。
寺子屋の教科書としても使われていて、有名な関孝和や貝原益軒もこの『塵劫記』を使って勉強していました。
また、難しい問題が解けると、それを絵馬のように木の板に記して神社に納め、問題が解けたことを神様仏様に感謝するという風習も江戸時代にはありました。(算額絵馬)

江戸の庶民は、趣味で数学を勉強していたのです。
幕末になると、日本は鎖国から解き放たれ、西洋の科学文明がどっと押し寄せました。
それらは多くの日本人にはまるで馴染みのないものでしたが、当時の日本人はあっという間に吸収し、驚くほどのスピードでヨーロッパの科学文明に追いついたのです。
その理由は庶民に、それだけの下地があったためです。
ペリーが来航した際、ほんの数年で、日本はなんと3つもの藩(薩摩、伊予、佐賀)で国産の蒸気船の建造に成功してしまうのです。
恐ろしいほどの学習能力の高さです。
こんなことは世界にまったく例のないことです。
世界の中で日本だけが近代化によって唯一列強からの侵略を防いだのは、こうした学習能力でした。
日本人の勉強好きが、侵略を防いだといって良いでしょう。