
「読書の秋」です。
どっぷりと読書の世界に浸りましょう。
仕事柄、大量の本を読みます。
図書館で借りた本を、丈夫な紙袋に大量に詰め込んで持ち帰る、ということをずっとやっています。
その中から一番勧められる本を時々紹介していますが、今回は創元社の「戦後再発見双書」のシリーズの紹介です。
このシリーズは大変おもしろく、現在刊行されているものはすべて読んでいますが、特にお勧めなのが「検証法治国家崩壊~砂川裁判と日米密約交渉~」です。
在日米軍の合憲性について争った砂川裁判の判決をめぐり、日米間にあったやり取りについて書いた本です。
砂川裁判は、戦後史というものの本質、さらに現在起こっている様々なことを考える上で非常に大きな意味を持っています。
1955年、在日米軍は日本政府に対し、立川基地の拡張を求めました。
この基地拡張の工事の話を聞いた砂川町(現:立川市)の住民は、立川基地の拡張への反対運動を行います。
1957年7月に政府は基地拡張のための強制測量を実施しましたが、これに対して、米軍基地の拡張に反対するデモ隊が阻止を試みます。
このうち、7人が、柵を壊し米軍の敷地内に侵入したとして、日米安保条約に基づく特別法によって逮捕・起訴されました。
しかし、デモ隊側は、そもそも安保条約自体が憲法第9条に違反するため、安保条約に基づいて規定された本法律も違憲であることから、無罪であると主張しました。
これに対して東京地裁は驚くべき判決を下しました。

この判決を、東京地裁の裁判長・伊達秋雄の名前をとって伊達判決と言います。
なんと、駐留米軍が憲法第9条によって禁止される「戦力の保持」に該当するとの判断を下しました。
この判決により、逮捕された7人は無罪となりました。
伊達判決の論理は非常に明解でした。
日本が提供した基地は米軍の軍事行動のために使用される。その結果、日本が直接関係のない武力紛争に巻き込まれ、戦争の惨禍が日本におよぶおそれもある。したがって、安保条約によりこのような危険をもたらす可能性を含む米軍駐留を許した日本政府の行為は、「政府の行為によってふたたび戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意」した日本国憲法の精神に反する。
この判決に、日本の政府関係者は震え上がりました。
また、アメリカもこの判決に危機感を強めます。
この判決は、在日米軍の存在を根本から脅かすものとなるからです。
当時のアメリカの日本外交の責任者がマッカーサー駐日大使です。
あの有名なダグラス=マッカーサーの甥っ子です。
この判決を受けて、日本政府当局にこの件を飛躍上告するよう指示しました。
ちょうど日米安全保障条約の改定交渉の最中でした。
この違憲判決を早く覆さないと、新安保条約の調印に差支えが出てしまう。
飛躍上告をすれば通常の手続きよりも早く判決が得られます。
そして、マッカーサー駐日大使は、最高裁長官に自ら接触し、裁判の日程や判決の見通しについて何度も話し合いをしました。
審議の内容も判決内容も、アメリカ側に漏洩していました。
当時の最高裁判所長官、田中耕太郎が最高裁での判決内容の見通しなどをマッカーサー駐日大使に報告しながら裁判を進めていたということがアメリカの公文書の秘密解除によって2008年に明らかになりました。
日米安保条約にもとづく米軍の駐留は合憲か違憲かが大きな争点になっている裁判です。
アメリカ政府を代表する駐日アメリカ大使は裁判の一方の当事者です。
そのような立場の人間に最高裁の長官ともあろう人が内部情報をもらす。
これでは裁判の公正さは保たれるはずがありません。

これが、マッカーサー駐日大使からアメリカ本国の国務長官あての機密電報です。
マッカーサー駐日大使と田中耕太郎最高裁長官が密談した内容が書いてあります。
特に、田中が伊達判決を覆し、最高裁の15人の裁判官の全員一致で、在日米軍に合憲判決を出すという意向が語られているのです。
アメリカからの露骨な内政干渉に屈して判決を決定するだけでなく、審議の内容、判決の内容が事前の当事者のアメリカに伝えられています。
これは大問題です。
憲法の番人とも言われる最高裁。
その長官で、全国の裁判所、裁判官のトップに立ち、率先して法を守らなければならない人物、日本の司法の最高責任者ともいうべき人が、評議の秘密をもらしてした、ということです。
まさに「法治国家の崩壊」ともいうべき大事件です。
日本の司法の歴史における最大の汚点と言って良いでしょう。
飛躍上告となった最高裁では、地裁判決を覆して、7人の被告人は有罪となりました。
判決の根拠になったのが統治行為論です。
「高度に政治性を有する問題(これが統治行為)は裁判所の判断にはなじまない」というものです。
この裁判は、安保条約と日本国憲法のどちらを上位に置くのかという裁判でした。
これによって安保条約は日本国憲法の上位にあることが判決として確定しました。
安保条約のような重大で、高度な政治性を持つ問題について最高裁は憲法判断をしない、という判決です。
しかも、日米安全保障条約の「ような」としたことで、以後アメリカ軍だけでなく、自民党政権や官僚たちもやりたい放題になりました。
何が重大で高度な政治性を有するかは、議会で多数派の政権与党が勝手に決めて良いということになるからです。
政治の暴走に歯止めを効かせる仕組みを失ってしまったことが、現在の日本に及ぼした影響はとてつもなく大きいです。
「なぜ政治は我々の望む方向に進んでくれないのか」
こうした疑問を持っている人は、この本を読むと非常に展望がクリアになります。
政治の問題の本質について考えたい人にぜひ読んでほしい本です。