慶應文学部の小論文は歴史で攻略!

慶應の文学部では、毎年、抽象的なテーマについて考えさせる問題を出題しています。

例えば過去10年間を振り返ると、このような問題を出題してきました。

「人間の創造性」について、この文章を踏まえてあなたの考えを320字以上400字以内で述べなさい。(2023)

「正しさ」について、この文章を踏まえて、あなたの考えを320字以上400字以内で説明しなさい。(2022)

「正解が出ない問題に取り組むことの意義」について、この文章を踏まえてあなたの考えを320字以上400文字以内で述べなさい。(2021)

「集団に属するということ」について、この文章を踏まえてあなたの考えを320字以上400字以内で述べなさい。(2020)

「能力」について、この文章を踏まえてあなたの考えを320字以上400字以内で述べなさい。(2019)

「自由」について、この文章を踏まえてあなたの考えを320字以上400字以内で述べなさい。(2018)

「分け与えること」について、この文章を踏まえてあなたの考えを320字以上400字以内で述べなさい。(2017)

人間にとって「名付ける」とはどのようなことか、この文章を踏まえてあなた自身の考えを320字以上400字以内で答えなさい。(2016)

人間にとって「科学的な知識」とはどのようなものか、この文章を踏まえてあなた自身の考えを320字以上400字以内でまとめなさい。(2015)

「異邦人」とはどのような存在か、この文章を踏まえてあなたの考えを320字以上400字以内で述べなさい。(2014)

こういう抽象的な問いに対してどのように答えるのかということについて、攻略法を紹介します。

自分自身の考えを筆者の主張に賛意を示すか、突っ込みを入れるかということで示すわけですが、その際に重要になるのは「根拠」です。

自分がなぜその意見なのかということを、「根拠」を述べて説明する必要があるのです。

この「根拠」を自分の周りの身近な例で書いた生徒は、落ちます。

「あなたの身の回りではそうかもしれないけど、それは一般的ではないよね」と反論を許してしまうからです。

では、「根拠」には何を書くべきなのでしょうか。

慶應の文学部については、根拠として最も使えるのが「歴史」です。

愚者は「経験」に学び、賢者は「歴史」に学ぶというのはビスマルクの言葉です。

愚者は自分自身の経験からしか学ぶことができないのです。

「歴史」には過去の先人たちの無限の経験が詰まっています。

この中から自らの立場を補強する例を引用することによって、非常に説得力のある意見を書くことができます。

だから、「歴史」を根拠として使った生徒は合格しています。

2022年の問題を例に説明します。

2022年の問題は、「正しさ」についてこの文章を踏まえて、あなたの考えを320字以上400字以内で説明しなさい、というものでした。

課題文ではハーバーマスとロールズの意見を紹介しながら著者の意見が展開されています。

ハーバーマスは正しさを実現するために議論に議論を重ねることの重要性を主張しています。

でも、私たち全員が自分の立場を越えて合理的に正しい結論を共有できる理性的な存在とするのは幻想にすぎないと著者は説きます。

一方、ロールズは自由と平等という普遍的な正義の原理であると主張しています。

でも、自由と平等はどのような意味で正しいものなのかを掘り下げて検討しなければならないと著者は説きます。

こうした意見を踏まえた上で、合格した生徒は以下のように書きました。

課題文で批判されている、正しさの押し付けに私も疑問を覚える。

私は正しさとは個人が独自の倫理観をもとに規定する、多様なものだと考える。

各人が自分の価値観を問い直し修正を重ねていくことで、善悪両面を持ちうる社会をより正確に捉えられる。

だが実際は人々は自分たちが属する集団を善だと信じて疑わず、他者を悪として排斥し、正義の理念が暴走する事件が頻発している。

例えば近年イスラム教徒を、男女平等を重んじる西洋社会で「正しくない」とみなす風潮がある。

さらに過激派のテロなどの影響もありイスラム教国の独裁者は悪であるという認識が広まった。

その結果アメリカはサダム・フセインの支配を悪の枢軸と呼び根拠なくイラク戦争をおこした。

しかし戦争では多くの罪のない民間人が殺され、さらに過激派を抑えていた政権が崩壊したことでイスラム国が台頭した。

このように正しさとは一概に断定できるものではない。

自省による修正が不可欠である。

すごい答案です。

この生徒は受験が終わった後、「先生が授業のときに話してくれたことを思い出して書きました!」と言ってくれました。

授業で話したことを消化して自分のものとし、さらに本文を踏まえて書けているので教師冥利につきますね。

もう少し補足で説明していきます。

西洋的な自由や平等の観点から見ると、イスラム教は自由や平等を抑圧していることになってしまいます。

ハーバーマスのいう議論ではいつまでも平行線をたどってしまって解決しないし、ロールズの言う自由や平等もイスラム社会では「普遍」ではありませんのでここでは通用しません。

アメリカの民主主義によってイラクに自由・平等を実現するためにイラク戦争でサダム=フセインを倒しました。

でも、結果はイスラム国の台頭を招き、多くの人を抑圧する結果を招いてしまうことになります。

自らの価値観の押し付けが、イスラム社会に混乱をもたらしてしまった、ということを歴史を引用しながら説明できています。

小論文で合格点を取るため、というのは了見の狭い話です。

普段の学習を通じて、歴史を材料として考える力を身につけてほしいのです。

世の中で起こっていることについて、より深く理解することができるようになります。

それこそが、歴史というものを勉強する本当の意義であると考えています。

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